【記事掲載】Yahoo! 連載インタビュー「人工知能(AI)の不都合な未来」

ヤフー・ジャパンの連載インタビューにモーリー・ロバートソンが人工知能(AI)について語りました。

北野武氏、佐久間宣行氏、橋爪大三郎氏と共に「人工知能が人間になりかわる日」と言うトピックでモーリーもインタビューに応えました。モーリー独自の世界観が広がっている記事になっています。

題して、「国際政治問題からイスラム原理主義によるテロ、さらにカルチャーの最前線まで幅広く解説するモーリーが、テクノロジーの進化がもたらす課題を近年の情勢や有名SF作品を絡めながら説く。」になっています。 – Yahoo! 本文より

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モーリーロバートソン
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「国際政治問題からイスラム原理主義によるテロ、さらにカルチャーの最前線まで幅広く解説するモーリーが、テクノロジーの進化がもたらす課題を近年の情勢や有名SF作品を絡めながら説く。」

多くの人に「この人の正体は何だ?」と思われているだろう。現役で東大に合格するも1年で中退し、ハーバード大学に入学。そのほか、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学などにも同時合格した秀才でありながら、ダブステップなどハードコアな音楽を中心に活動するDJで、国際ジャーナリストでもある。
今年4月からはフジテレビ「ユアタイム」に、あのショーンK氏の後任としてレギュラー出演中。お茶の間に知名度が浸透してきた現在もなお、とにかく正体がつかめない男、それがモーリー・ロバートソンだ。

そんなモーリーはテクノロジーと人間の未来をどう見ているのか? 国際政治問題からイスラム原理主義によるテロ、さらにカルチャーの最前線まで幅広く解説するモーリーが、テクノロジーの進化がもたらす課題を近年の世界情勢を絡めながら説く。

モーリーロバートソン
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▪︎ モーリーが考える人工知能の副作用
「人間がツールを進化させていくと、それがもたらす驚きに圧倒され、『そもそも何がしたかったのか?』ということを見失ってしまうことがあります」とモーリーは警鐘を鳴らす。

「電報やモールス信号から始まって、グラハム・ベルが電話を発明しました。それからインターネットが生まれて、今や地球の反対側から商品を送ってもらうなんてことが簡単にできるようになった。

でも、テクノロジーの進化によってビジネスがグローバルに広がったことで、工場の待遇に腹を立てた中国人が、冷凍餃子に毒を混入して千葉県の家族を食中毒にしてしまうなんてことが起こってしまう。新しいテクノロジーが生まれたとき、それを作った人、それどころか神でさえも、こうした副作用を予想できなかったのです」

新しいテクノロジーを発明する人は、世界を混乱させようと思ったわけではない。ほとんどの研究者や発明家たちは、世界を少しでも便利に、そして人々を幸せにすることを願って発明をしていった。

しかし、私たちは目の前の生活を便利にすることばかりを追いかけ、テクノロジーの悪影響については過小評価してしまう傾向がある。それは、現在話題になっている人工知能も例外ではないとモーリーは言う。

「世界を破滅させる」といった極端なものから「仕事が奪われる」といった身近な不安まで、人工知能にはさまざまな課題が指摘されているが、中でも現実的な問題として挙げるのは「技術の独占」だ。

例えば、人工知能研究のトップランナーとして注目されるのは、ほとんどがアメリカの大手IT企業だ。もし、一部の企業に人工知能のテクノロジーが独占されると、少数のプレイヤーが市場も独占することになり、世界の格差はよりいっそう進むことが懸念される。

その対策として考えられるのが、「人工知能のオープンソース化」。実際にマイクロソフトやGoogle、FacebookといったIT業界の巨人たちは、次々と人工知能に使われているソフトウェアをオープンにしている。
「しかし、データを無作為に公開することが必ずしもいいことだとは言い切れません。興味深い事例があります。情報のオープン化にもっとも熱心なウィキリークスの活動です。創始者のジュリアン・アサンジは3年以上、ロンドンのエクアドル大使館に身を潜めています。しかし最近、精神的に追い詰められてきたのか、情報公開のやり方が非常に乱暴になってきているのです。」

モーリーロバートソン
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▪︎ ウィキリークスの迷走から見るテクノロジー進化のリスク
ウィキリークスを世界的に有名にしたのは、アメリカの外交公電をネット上に暴露した事件だ。彼らは2010年11月から翌年9月にかけ、アメリカの軍事や外交に関わる機密文書を大々的に公開した。このときはニューヨーク・タイムズやガーディアンなど、英米の新聞社と相談しながら公開を行っていた。しかし、次第に新聞社はアサンジから距離を取るようになった。

というのも、新聞には情報源の秘匿や人命に損害を与える箇所を修正するルールがある。こうした姿勢に対してアサンジは、「人権を盾にしながら政府の味方をしているだけだ」と批判的になったのだ。

「今年7月、トルコのクーデターが起こったとき、ウィキリークスは政府系のデータベースから入手した文書を何十万通も公開しました。すると、そこには反政府系の集会に参加した女性たちの私生活の情報が入っていました。ウィキリークスはトルコの女性たちのプライバシーを危機に晒したわけです。

どうしてそんなことが起こったかというと、ウィキリークスは『情報はすべて、完全に公開しなくてはならない』といった原理主義的な方針を守ることばかりを優先するため、その悪影響については省みないからです。実際、こうした方針に対してツイッターで疑問を呈したアカウントは次々とブロックしています。」

また、モーリーによると、ウィキリークスは直近のアメリカ大統領選にからみ、DNC(米国民主党大会)の関係者のメールを何万通も公開したが、その中には捏造された疑いのある情報も紛れ込んでいた。しかも、ウィキリークスに情報を提供しているのはロシアの情報機関ではないかとの説もあるという。

「もともとアサンジはねじれた正義感を持っており、普通に生きていたら、時代の寵児になれるような人物じゃないんです。しかしテクノロジーを手にしたことで、世界の注目を集めるようになり、大きな権力を持った。この例からわかるのは将来、人工知能の仕組みが完全にオープンソース化され、世界の誰もが人工知能を作れるようになったら、アサンジのように独善的な信念を持って使う人間が登場するかもしれないということです。」

インターネットを行き交う世界中の情報をビッグデータとして扱う人工知能は、人々のあらゆる趣味嗜好を学習し、正確に次の動きを予測する。インターネット広告への活用のように、「この商品を買った人へのおすすめ」という機能は、日々正確さを増している。

それを政治の世界に応用することは容易だ。すでにビッグデータに基づいた政策提言を行うコンサルタント企業があるように、未来の選挙や政治運動というのは、政治家が信念から実現したい政策を世に問うというよりも、どの政策を唱えれば、どの層に支持されるかといった視点で行われるだろう。しかも、それは高い精度で人々の投票行動や支持率を左右する。

「人工知能の精度が上がるほど、アサンジのような人間が純粋な情報公開を謳い、『正義の味方』のパフォーマンスをしながら、自分の偏った信念の方向、あるいは隠れた資金源となるクライアントの都合の良い方向へと人々を誘導することも簡単になるでしょう。ドナルド・トランプがアメリカ大統領になりそうな今(※インタビューが行われたのは大統領選前)、こうしたリスクについて想定しておくことは必要です。

私はトランプが人工知能を手にするくらいなら、Googleにしっかりとデータを管理してもらったほうがマシではないかと思うことがあります。企業の支配からテクノロジーを解放することが本当に賢明なことなのか、私たちは考えなければなりません。」

モーリーロバートソン
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▪︎ 古典SF小説に予想されたディストピアが実現する?
モーリーは人工知能のリスクについて考えるとき、イギリスの作家オルダス・ハックスレーの『すばらしい新世界』という古典SF小説の内容を思い出すという。

「ハックスレーが描いた未来の世界は徹底的に管理されていて、人々は遺伝子操作により、アルファ・ベータ・ガンマなどの階級に分けられています。ナチスの登場を予見するかのような小説ですが、実はハックスレー自身は優生学を信奉していました。

第一次世界大戦の反省から、当時のヨーロッパでは、『そもそも人間という人種に欠点がある。だから品種改良をして、次に生まれる子供たちは闘争心がないように育てるべきだ』という主張が真剣に議論されていたのです。」

そこにあるのは、人類をエリートとそれ以外に分け、エリートがその他大勢を管理すべきだとする優生思想であり、現代ならば、間違いなく非人道的だと批判される考え方だ。しかし、人工知能が進化していくと、こうした危うい発想が「合理的判断」の名の下に日常に忍び込んで来るかもしれない。

「DNA診断と人工知能を組み合わせれば、本人も意識していない潜在的な病気のリスクを計測することができるようになります。例えば、血縁関係を調べて、『親戚にガンの人がいるから、40歳までに5割の確率で発症する』といったことが統計データから診断できるようになる。精神疾患なら、『こういう遺伝子の人はうつ病になりやすい』なんてこともわかるかもしれない。

企業のニーズはかなりあるでしょう。病気のリスクが高い“劣性遺伝子”の人を解雇していったり、その反対で病気のリスクが低い“優性遺伝子”の人を昇進させたりできるのですから。

人工知能が民間で活用されるようになったら、企業は身を守るため、こうした裏マニュアルを作り始めるようになると思います。本当に病気になるかどうかはわからないのに、統計的に確率が高いからというだけで判断される。そうした価値観が社会に広まっていく可能性は高いと思います。」

モーリーロバートソン
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▪︎ テクノロジーのパラドックスにどう向き合うか
ここまで人工知能のリスクについて語ってきたモーリーだが、「しかし最新のテクノロジーには必ずパラドックスがある」とも指摘する。

「例えば、Googleはアメリカの名門大学と組んで、オンライン上で無償でコンピューターサイエンスや数学の授業が受けられるサービスを作っています。これの真の目的は、トップスコアの生徒を世界中からリクルーティングすることです。そうすると、経済成長が著しい発展途上の国から、やる気満々で優秀な若者たちが集まってきます。そのほとんどは、白人ではありません。」

アメリカ社会の根幹には、未だに白人優位の思想があるとモーリーは言う。2015年度のアカデミー賞でも主演男優、主演女優、助演男優、助演女優の候補者がすべて白人だったことから、「オスカーは白人偏重」という批判が集まり、黒人映画監督のスパイク・リーや黒人俳優のウィル・スミスらが授賞式をボイコットした。

しかし、テクノロジーの最先端を生み出し続けるシリコンバレーでは、こうした白人至上主義は解体されつつある。Googleもマイクロソフトもトップはインド人であり、エグゼクティブ層の多人種化が着実に進んでいるのだ。

「統計的な判断でドライに優秀な人を探していくと、純粋な能力の高さで採用するようになります。アメリカの中枢を支える企業でもっと多人種化が進めば、白人優位の社会構造が揺るがされていく。つまり、新しいテクノロジーには、古い価値観を壊していく要素が含まれているのです。問題は、私たちがそれをどこまで受け入れられるかでしょう。

能力至上主義は一方で、白人至上主義にしがみつきたい人々も生み出しています。そういう人たちがドナルド・トランプを支持しているのです。偏見のない能力至上主義は人種差別を撤廃するが、新たな格差を生むかもしれない。メリットも大きいが、デメリットも大きい。それがテクノロジーのパラドックスです。

おそらく、テクノロジーの進化が止まることはありません。私たちに問われているのは、新しいツールをいかに適切にコントロールしていくか、その意志と権力による濫用を防ぐための監視なのです。その舵取りを誤れば、世界は非常に不安定な状況に陥ると思います。」

テクノロジーの進歩は人々の生活に数々の革新をもたらしてきた。しかし、何かが大きく移り変わるということは、その裏で別の何かが変化しているということでもある。そこから目を背けず、ツールを扱う倫理観が問われるというのがモーリーの見解だ。

モーリーロバートソン
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▪︎ 社会の混乱が人間のひらめきを促す
一方、技術の進歩は文化にも影響を与える。そこでミュージシャンとしても活動するモーリーに聞いてみたかったことがある。――人工知能でも音楽を作ることはできますか?

「機械が自律的に音楽を作ることはできると思いますが、そこに芸術としてのクリエイティブなひらめきは期待できないでしょう。設計者が音楽に精通し、自分の音楽のために人工知能を設計すれば、新しい芸術は生まれる。ただ、それは現代のミュージシャンがラップトップを使って音楽を作るのと、何が違うのでしょうか。ツールが変わっても、音楽にとって重要なのは、クリエイティブを生む人間のひらめきだと思います。」

モーリーは絵画の歴史を例に挙げる。

かつて絵画の世界には、現実をできるだけそっくりキャンバス上に再現する写実主義があった。しかし19世紀に写真が誕生したことで、彼らの技術は意義を失った。そして20世紀に突入すると、第一次世界大戦が起こり、芸術家たちはこれまで培ってきた自分たちの芸術を否定していった。

「それまで英雄の絵や宗教画を描いていた芸術家たちが悲観的になり、戦争をもたらした価値観や美意識への抗議として、どんどん絵画の技法を破壊していきました。ヨーロッパの文化的な混乱を象徴するように、当時の富裕層や芸術家たちの間では、神秘主義や霊媒師を招いての『コックリさん』が流行っていました。『私は死んだナポレオンと話せる』とか言う胡散臭い人が、商売として成り立っていたんです。ヒトラーも超能力研究所を設立したほど、心霊研究にハマっていましたね。

そういう心霊現象も超能力もごっちゃごちゃになって混沌とした中で、次第に芸術にランダムな要素を持ち込む人々が登場してきました。マルセル・デュシャンやハンス・アルプといった芸術家たちです。彼らは『対象を描く』という、芸術が目指していた具象の表現を放棄しました。彼らが表現するのはイメージでしかない。

しかし、とにかく作り続けていると、イメージが別の意味を持つようになってきた。パウル・クレーの絵がわかりやすいですが、『子供が描いたような絵』と言われながらも、そこにはクレー以前の絵画とはまったく違う新しい何かがあるのです。」

第一次世界大戦の衝撃を受け止めた芸術家たちは、社会がカオスに飲み込まれていく中で、従来の芸術観を否定するところから始めなければならなかった。すると、そこに新しい芸術が誕生したのである。

「皮肉なことに、社会が混乱すればするほど、人間は新しいひらめきを生むのかもしれない」とモーリーは言う。

モーリーロバートソン
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▪︎ レコード回帰は人工知能へのカウンター?
1980年代のイギリスでも、音楽を舞台に同じような変化が起こった。世界にハウスミュージックを広めた「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と言われるムーブメントは、イギリスが戦後最悪の失業率を記録している中で生まれた。

「首相(当時)のマーガレット・サッチャーは、新自由主義の経済学者、ミルトン・フリードマンの提言通りの経済政策を実行しました。富は裕福な人たちに集中させる一方、貧乏人は怠けるから、福祉を充実させてはいけない。溺れそうな状態でも生き残った人々によって、社会全体が強くなっていくという考え方です。」

この「サッチャリズム」によって若者たちの失業率は上がり、社会全体を厭世感が覆った。国内の工場は海外企業との競争に破れ、次々と閉鎖していった。工業都市だったマンチェスターでは、職に就けない大量の若者たちが収入もなく、街中の広場でブラブラし、そこに大音量のスピーカーを持ち込んで踊っていた。音楽に身を任せることしかやることがなかったからだ。

「そこから政治に対する怒りと無力感が若者たちの間でうわーっと盛り上がり、『セカンド・サマー・オブ・ラブ』というムーブメントにつながりました。」

広場にたむろしていた若者同士が連絡を取り合い、郊外の農場などを数千人で一時的に占拠する「レイヴ」がここから発生した。当局はレイヴを取り締まったが、それはむしろレイヴの拡大を後押しした。空前の社会的混乱が新しい文化を生んだのだ。

「人工知能が世の中を便利にするといっても、それが企業主導である以上、突き詰めると企業の経営者と株主にとってストレスフリーな社会を実現するということだと思っています。それはサッチャーの新自由主義が帰ってくるということ。人工知能時代のクリエイティビティとは、人工知能によってもたらされるカオスと戦う人々が担うものになっていくのかもしれません」

その一例が、世界中で起こっている「バイナル(アナログレコード)回帰」であると言う。

「アメリカでも日本でもバイナルの売り上げが良くなっています。デジタル化したときも音が太くなるんで、直接データを買うよりもいいって評価されているんです。さらに、20歳ぐらいの若者たちが、ウォークマンの復刻版みたいなガジェットを持ち歩いて、あえてカセットテープで聴いたりもしています。

今のiPhoneからイヤホンジャックがなくなって、すべてブルートゥースになりましたよね。そうすると原理上は音域が狭まってしまうので、音楽好きには物足りないと思うんですよ。つまり、これからの視聴環境というのは、物足りないけど利便性が高いiPhoneと、便利ではないけど充実した音楽体験ができるアナログプレイヤーに二極化していく。

利便性を追求するなら、絶対にiPhoneのほうがいいんです。聴き放題サービスによるレコメンドみたいな機能も、人工知能が導入されれば、かなり精度が上がって使いやすくなる。でも、音楽がもたらす豊かな体験を取り返したい人々は、ファストフードに疲れてしまった人々と同じように、オーガニックな要素を求めるようになるでしょう。

特にこれからの世代は、物心付いたときから便利な環境に浸かっているから、ターンテーブルやカセットテープの音に触れて、『これ超クールじゃん!』って興奮すると思います。新鮮だから、ころんといっちゃいますよね。」

モーリーロバートソン
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▪︎ マーケットに最適化することで突然変異が生まれる
しかし、人工知能への対抗としてのオーガニックという考え方だけが、クリエイティビティを生むわけではない。モーリーは昨今流行しているEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)を例に、マーケットに最適化した音楽からでも、新しい表現が作り出されていく現象を説明する。

「EDMほど人工知能での生成に向いた音楽はないかもしれないですね。マーケットが喜ぶ要素を取り入れて、アイデアのパクリでもいいからどんどん新曲を作っていく。よくEDMは創造性がないって批判されますが、現実に起こっていることはもっと面白いのです。」

例えば、「ダブステップ」というイギリス・ブリストルを中心に生まれたダンスミュージックがある。最初は小さなムーブメントに過ぎなかったが、ロサンゼルスのスクリレックス(Skrillex)という著名なDJがロックと掛け合わせたことで「ブロウステップ」という新しいジャンルを生み、世界的に大ヒットさせた。

すると、今度は世界中のDJたちがブロウステップを取り入れていき、どんどん似たような音楽がヒットしていった。ヒットする音楽の“型“が広まり、参入障壁がぐっと下がったのだ。

「でも、そのほとんどはあっという間に消えてしまいます。ポーランドのザイレント(Xilent)というDJ・トラックメーカーは、ものすごい才能があったのに、2年半ほどで急に存在感が薄れてしまった。それは彼が打ち出した新しい音の作り方を世界中のDJがパクったからです。どこに行ってもザイレント風の曲がかかるので、飽きられてしまいました。それだけ音楽の進化のサイクルが早まっているのですが、そこにはいい面もあります。」

それはマーケットの新陳代謝によって、新しい才能が次々と輩出されることだ。実際にEDMの世界では、ティーンエージャーのスターが続出している。

「イメージとしては、外来種だったブラックバスが琵琶湖の魚を食い尽くしたら、今度はピラニアが登場して、ブラックバスを食い尽くしているようなものです。そしてピラニアも、また別の何かに食い尽くされていく。EDMのようなマーケット至上主義みたいな音楽であっても、今の世界では突然変異のような音楽が生まれる可能性があるのです。

これはサッチャーの時代にはあり得ないことでした。当時は世界がグローバル化しておらず、マーケットのサイクルも遅かったからです。今ここで音楽を買っている人たちは、全員がマーケットの一員として社会実験をしています。マーケットの暴走から本当に音楽は進化していくのか、それはどれくらいの速度で訪れるのか、壮大な実験が進行しています。」

マーケットは落ち着くことを嫌い、変化を好む。もし人工知能が音楽の制作現場に導入されれば、人間のクリエイティビティを増幅し、さらに流行り廃りのサイクルを早めてしまうかもしれない。そのとき、従来の価値観が破壊されるカオスが生み出され、それまで想像もしていなかった何かが生まれる。

カオスと向き合うにしろ、カオスに飲み込まれるにしろ、人工知能時代の到来は、人間のクリエイティビティを大きく揺さぶるだろう。モーリーはそんな時代の訪れに向け、「世界の変化から置いて行かれている日本の人々に、新しいひらめきを生む刺激を与えていきたい。例えば、僕が『報道ステーション』の司会になって、テレビにとって不都合なことばかり報道するとかね」と笑いながら語った。

*全文、Yahoo!JAPAN 連載インタビューより【 取材・文/小田山裕哉 】